2023 年 15 巻 1 号 p. 15-25
本研究では、製造業に属する日本企業の海外進出が業績に与える影響について、企業の異質性を考慮し、進出地域ごとに分析を行う。
多国籍企業の海外進出と企業業績の関係については、多くの研究がなされている。しかしながら、海外進出の効果についてポジティブである、ネガティブである、あるいは非線形の効果があるなどの報告がなされており、一致した結果は得られていない。この理由の1つは、既存研究が推計している統計モデルが企業ごとの効果の異質性を十分に考慮していないためと考えられる。
本研究では、近年、一般的な統計手法として用いられている階層ベイズモデルを適用し、企業ごとの効果を推定することによって、企業の異質性を考慮に入れた分析を試みた。また、その際に、地域ごとに進出の効果が異なることが想定されるため、アジア、欧州、北米の地域ごとに分析を行った。
その結果、企業の個体差を考慮し企業ごとのパラメータを推定したことにより、海外進出の効果を示すパラメータの分布にはいずれの地域(およびアジアにおける交互作用項)においても二峰性が認められ、企業の属性等によって異なる影響を与えていることが分かった。また、海外進出の業績への影響は地域ごとに異なり、北米の市場は日本と類似性がある一方、アジアについては異質なマーケットであるとともに、業況の拡大を伴って初めて業績にポジティブな影響を及ぼすことが定量的に示された。