日本顎口腔機能学会雑誌
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姿勢や食塊の性状の違いがヒトのオトガイ舌筋の筋電図活動に与える影響
杉野 伸一郎谷口 裕重塚田 徹大瀧 祥子梶井 友佳山田 好秋井上 誠
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2007 年 14 巻 1 号 p. 13-23

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抄録

咀嚼, 嚥下, 吸啜, 呼吸, 発話など顎口腔顔面領域のさまざまな機能に対して重要な役割をもつ舌の客観的評価を行なうことを目的として, 外舌筋のひとつであるオトガイ舌筋筋電図を記録し嚥下運動を含めた種々の随意運動時の活動様式を定量的に評価した.健常成人10名を対象として, 左側舌骨上筋群, 左側オトガイ舌筋筋電図記録を行った.実験1では, 安静位, 最大開口位, 最大舌突出位, 最大舌突出より舌のみ引っ込めという状態を各々約5秒間とらせ, 安定した2秒間の平均筋活動量を測定した.実験2では, 被験食品として選択した液体, シロップ, 硬さの異なる2つの寒天ゼリー各4mlを指示嚥下にて摂取した際の各筋活動を記録した.さらに各被験食品摂取時に, 頚部中間位, 前屈位, 回旋位のいずれかをとらせた.オトガイ舌筋は2峰性の活動を示したことから, それぞれの活動を舌筋1バースト, 舌筋2バーストとして各被験食品, 姿勢ごとの各筋活動の持続時間, ピーク値, そして全体の活動状態を表す平方二乗根 (筋活動量) を求めて比較した.最大舌突出時にはオトガイ舌筋の筋電図活動が大きく増加したのに対して, 最大舌突出から顎位を変化させずに舌のみを引っ込めた時にはオトガイ舌筋筋電図活動はほぼ消失し, さらに舌骨上筋群筋電図活動にも減少がみられたことから舌突出に関わる舌骨上筋群の活動が示唆された.嚥下時の記録では, すべての値は食塊が硬くなるに従い大きくなる傾向がみられたものの, 有意差が得られたのは舌筋1の持続時間のみであった.姿勢の変化による筋電図活動の違いはみられなかった.以上の結果から, 今回我々が開発したオトガイ舌筋の筋電図記録ユニットの有用性が確かめられ, さらに物性の異なる食塊嚥下時のオトガイ舌筋の変調パターンについては, 硬い食塊に対する前半の活動持続時間のみが延長することによって食品の物性変化に適応することが明らかとなった.

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