1981 年 72 巻 7 号 p. 900-909
腎孟癌を合併した Thorotrast kidney の2例を経験したので報告する. これらの症例では腹部単純X線撮影にて特徴ある腎部石灰化様陰影を認めたが, Thorotrast を使用した逆行性腎盂造影の既往は明らかでなかつた.
第1例は64歳の男子で発熱, 全身倦怠感を主訴として来院したが, 原発巣不明のまま転移性肺癌にて死亡した. 腎の腫瘍組織は中等度分化型の扁平上皮癌で, 腎盂の粘膜下組織には粗大顆粒状褐色色素の沈着がみられた.
第2例は86歳の男子で, 約50年前に右腎結石のため右腎摘除術を受けている. 主訴は肉眼的血尿であるが, 入院後腎不全のため死亡した. 剖検時には腎盂腫瘍を認めなかつたが, 組織学的には腺腔形成を伴う移行上皮癌の像であつた. 腎盂の粘膜下組織には第1例と同様の色素顆粒が沈着していた.
この沈着顆粒は軟X線撮影, microautoradiograph, γ線 energy spectrum により Thorotrast であることが証明された.