2008 年 34 巻 3 号 p. 127-132
セイヨウナシ'ラ・フランス'果実は成熟時に爆発的なエチレン生成と急激な果肉軟化を示す典型的なクライマクテリック型果実である。一方, 同じナシ属に属するチュウゴクナシ品種'ヤーリー'果実は成熟中に多量のエチレンを生成するが軟化しない。本研究では果実軟化の制御にかかわる因子を同定するために, これらナシ果実の細胞壁タンパク質のプロテオーム解析を行った。さまざまな成熟ステージの'ラ・フランス'細胞壁タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ, 成熟に伴い変化する19個のタンパク質スポットを得た。これらのうち, エチレン作用阻害剤である1-MCP処理による軟化抑制を行うと, 15個のタンパク質の蓄積がプレクライマクテリック期と同等になった。また, 19個のタンパク質のうち8個が'ヤーリー'果実では成熟に伴って変動せず, 果肉硬度と同じ挙動を示す結果となった。このうち1-MCPにより変動し, 'ヤーリー'では変化しなかったのは2個のスポットである。これら2個のタンパク質の蓄積パターンは果肉軟化様相と同じ挙動を示しており, 軟化の鍵因子の有力な候補と考えられた。