2022 年 55 巻 5 号 p. 311-316
症例は69歳の女性で,食道胃接合部癌に対する手術時に,肝被膜下に5 mm弱の白色結節が散在していた.術中迅速診断で腺癌と診断されたため,手術適応外と判断した.化学療法を施行し,その後の審査腹腔鏡時に再度切除した組織で胆管過誤腫と診断され,後日改めて根治術を施行した.本症例は,初回手術時に採取した組織片が小さく,超音波凝固切開装置による熱変性による細胞の変形が,病理診断の大きな障害になったと考えられる.加えて,原発の食道胃接合部癌が高分化型であり,異型が比較的弱い病変であったことも一因といえる.消化器癌に併存した肝腫瘍の診断において,当疾患の存在も念頭におき,微小な病変であってもその組織構築や細胞形態の維持が不十分となり病理診断に影響しないように,アーチファクトが加わらない美麗な標本を十分量採取するよう心がけるべきである.