2018 年 80 巻 2 号 p. 159-174
北極陸域モデル相互比較(GTMIP)は観測-モデル研究連携の構築,現行の陸域過程モデルの不確実性把握,次世代モデル構築のための課題抽出を目的とし,物理系から生態系にまたがる国内外の21モデルと6観測サイトが参加して行われた.評価項目は熱・水収支,積雪・凍土,炭素循環にわたるが,本稿では4サイト(フェアバンクス,ケヴォ,ティクシ,ヤクーツク)の観測値をもとに構築した共通駆動データを使用した34年間(1980-2013)の比較(stage 1)での熱・水収支について,その結果を報告する. 大気との熱・水収支に関して,物理系と生態系モデルの間では系統的な差異は見られず,個々のモデルの特徴のほうが大きかった.サイト間でも挙動の違いがあるものの,モデルの種類や複雑さとは必ずしも連動せず,背景(植生や凍土状況)に起因する違いのほうが大きかった.全体的に,モデル中央値は観測値をよく代表する推定値であったが,特に地下部との熱・水収支に関わる積雪や土壌水分・地温については,既定値設定や実装過程の有無によるモデル性能の差異もしくは系統的誤差が生じており,今後のモデル改良・高度化における重要性が示唆された.