背景: 慢性腎不全患者では血液透析 (HD) に関連し, 種々の不整脈を高率に発現する. 近年, 不整脈, 特に心室性不整脈と発作性心房細動の予測と評価に加算平均心電図 (SAE) による遅延電位 (LP) の検出の有用性が注目されてきており, 比較的簡単に検査することが可能となってきた. 目的: 安定期維持透析患者で, HD施行前後にSAEを測定し, その変動につき検討を行った. また, SAEの変化量と, 除水率や血液データの変化量との関連性についても検討した. 対象・方法: 80歳未満の安定期維持透析患者96名で, 陳旧性心筋梗塞, 心筋症, 慢性心房細動, 刺激伝導障害の症例は除外した. SAEをVCM-3000によりHD前後で測定, 同時に神経体液性因子を含めた血液検査を施行した. 対象のうち70名には携帯型24時間 (ホルター型) 心電図検査も施行した. 結果: filtered QRS (f-QRS) の終末40ms root mean square voltage (RMS40) は有意に増加, f-QRSの持続時間は有意に延長し, PQ間隔は有意に短縮した. SAEの変化量は, 除水率, 血液生化学データの変化量の他, 神経体液性因子 (特にrenin-angiotensin (RA) 系) の変化量と有意の相関を示した. 結論: f-QRS RMS40の増加とPQ間隔の短縮はHDの急性効果に伴う心筋内伝導障害の改善による可能性があるが, f-QRS持続時間の延長はHDによる前負荷と後負荷の軽減を反映せず, これがHDの不整脈誘発性と関連する可能性がある. ホルター型心電図検査の結果から, LPの有無は不整脈の発現頻度をある程度推測し得ると考えられた. SAEに対し, 神経体液性因子の変動が, 除水や血液生化学データの改善とともに大きく影響することが示唆され, RA系の調節が不整脈の予防に重要であると考えられた.