日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
顔面神経麻痺後遺症に対するリハビリテーション
東 貴弘
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2020 年 123 巻 6 号 p. 430-434

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抄録

 末梢性顔面神経麻痺は比較的予後良好な疾患であるが, 高度な神経障害を来すと病的共同運動などの後遺症を発症する. 顔面神経麻痺後の病的共同運動は顔面神経が迷入再生し, もともと支配していた表情筋と異なる表情筋を過誤支配することで出現する. したがっていったん発症すると治療が困難である. そこでわれわれは, 最も不快な病的共同運動である口運動に伴う不随意な閉瞼の程度を評価する瞼裂比 (%) と病的共同運動を予防するためのミラーバイオフィードバック療法を開発した. さらに, ENoG 値で病的共同運動の発症を予測できることを明らかにし, ENoG 値46.5%以下の症例が病的共同運動発症のリスクが高いために, 予防のためのミラーバイオフィードバック療法の適応があると考えられた. 一方, 病的共同運動の発症時期と ENoG 値の関連は乏しく, ENoG 値にかかわらず顔面神経麻痺発症3~5カ月後に病的共同運動が発症していた. 以上のことから, ENoG 値46.5%未満の顔面神経麻痺患者は顔面神経麻痺発症3~5カ月頃から病的共同運動の発症を予防するためのミラーバイオフィードバック療法を開始するべきであると考えられた. 一方発症した病的共同運動はミラーバイオフィードバック療法のみでは治療が困難である. そこで, ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック併用療法を開発した. 高度な病的共同運動を発症した顔面神経麻痺患者に対して, 最初に患側眼輪筋にボツリヌス毒素を投与し病的共同運動を一時的に軽快させる. その後, ミラーバイオフィードバック療法を10カ月間継続させた結果, 治療前に比較して治療後の病的共同運動は改善していた. ボツリヌス毒素・ミラーバイオフィードバック併用療法は発症した病的共同運動に対して有効であることが明らかになった.

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