日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
埋め込み型機器による感覚の再生
―人工網膜による視覚の再生―
小柳 光正
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2013 年 116 巻 7 号 p. 759-766

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抄録

網膜の疾病により失明した患者の視覚を再生するために, 人工視覚の実現を目指して三次元積層型人工網膜チップの開発を行った. また, 開発したチップを実際にウサギの眼に埋め込んで脳誘発電位 (EEP: Electrically Evoked Potential) を観測することにより視覚の再生を確認した. 三次元積層型人工網膜チップを用いた人工視覚では, 眼球内に埋め込んだ人工網膜チップにより光情報を受光し, 網膜の出力細胞に電気刺激を与えて視覚を再生する. 三次元積層型人工網膜チップでは, チップの構造を人の網膜と同じ三次元積層構造とすることで, 高開口率, 高感度, 高解像度の実現が可能となる. また, 眼球運動による視点移動にも対応できるので, 患者に高いQOLを提供できる. チップを眼球内に埋め込んだ後の刺激電流パルスのパラメータの調整は, 眼球外からの無線通信によって行う. 無線通信は, 電力供給にも用いるコイルを使って行う. 電力供給のための高周波信号に, パラメータ調整用のデータを重畳させて送信する. 試作した人工網膜チップを用いて, チップに入射する光信号の強度に比例して, チップからの出力である網膜刺激電流パルスの周波数が変化することを確認した. このような人工網膜チップを電力供給用フレキシブルケーブルに搭載し, 樹脂封止を行うことにより, 眼球への埋め込みが可能な人工網膜モジュールを作製した. 人工網膜チップが搭載されているフレキシブルケーブルの裏面には, 網膜の出力細胞を電流刺激するための刺激電極アレイが形成されている. このような人工網膜モジュールをウサギの眼に埋め込んで, 網膜の出力細胞を電流パルスで直接刺激した時の脳視覚野における誘発電位を観測し, 脳の視覚野に視覚を発生させることができることを確認した.

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© 2013 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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