日本耳鼻咽喉科学会会報
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音刺激に対し頸髄より記録される誘発電位
ネコを用いた検討
正木 義男小笠原 香緒渥美 和江渡辺 道隆古川 朋靖石川 正治市川 銀一郎
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2001 年 104 巻 10 号 p. 1001-1009

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抄録

(はじめに) 音刺激が頸筋に与える影響については, Vestibular Evoked Myogenic Potentials (VEMP, 以下VEMPと略す) として報告されているが, 音刺激が頸髄にどのような反応を引き起こすかということについては報告がない. 今回は音刺激により頸髄に誘発される電位について検討した.
(対象と方法) 対象は成猫10匹. ミオブロックとケタラールで非動化した後, 鼓膜に異常がないことを確認した. 両耳のABRを測定し, その反応域値を測定した. 頸椎背側を除去し, 頸髄のC3からC6レベルを露出し脊髄前角に直径0.4mmの同心軸針電極を挿入した. 音刺激はクリック音を使用し, 刺激頻度は1Hz~20Hzとした.
(結果) 音場で1Hzのクリック音刺激を与えたところ, 頸髄C3レベルにて4.89msec~5.10msecにピークをもつ誘発電位が認められた. この反応はABRの域値上45dBSPL~60dBSPLで認められ, 音圧が低くなると潜時が延長した. 頸髄C4からC6レベルでも測定を試みたが反応電位は確認できなかった. また, 対側耳を刺激した場合も反応電位は確認できなかった. 刺激頻度を変化させ100回加算したところ, 刺激頻度が高くなるほど振幅が減少し, 20Hzでは反応がほとんど消失した.
(考察) 頸髄のC2からC5レベルの脊髄前角には副神経脊髄核が存在しているが, 特にC3レベルは胸鎖乳突筋の運動と関連している. 刺激頻度を高くするとABRは変化を認めなかったが, 本反応は振幅が減少したことから聴覚路とは異なる経路による反応, つまり前庭系の反応である可能性も考えられた. また, 今回の実験結果は副神経脊髄核の音刺激に対する反応を反映しており, VEMPに関連した反応である可能性も考えられた.

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