日本耳鼻咽喉科学会会報
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人工中耳の経験とその術後成績
2年以上経過した4症例の検討
東野 哲也稲葉 順子竹中 美香清水 謙祐森満 保小宗 静男
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1999 年 102 巻 6 号 p. 835-845

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抄録

宮崎医科大学耳鼻咽喉科で手術した人工中耳4症例について臨床経過を検討し, 難聴治療における人工中耳の有用性と問題点を検討した. 全例とも従来の鼓室形成術では聴力改善が十分でないと判断した術後耳で, 1994年9月から1996年10月に半植え込み型人工中耳手術を行った. 人工中耳適応の最終判定は局麻下術中振動聴力検査により行った. 術直後より良好な人工中耳聴力が維持されているのが2例, 人工中耳効果が術後半年以降改善したのが1例, 軽度の悪化を来したのが1例であった. 悪化傾向を示した1例は正常な位置に鼓膜を形成した外耳道保存鼓室形成術後例で, 形成鼓膜の内陥により鼓膜と振動子の接触による振動効率の低下が原因と考えられた. 他の3例は根治術後耳であったが, 一期的な人工中耳植え込みと外耳道閉鎖を行い, 良好な人工中耳聴力成績が得られた. したがって, 人工中耳振動子の可動性を長期維持する方策として意図的鼓膜浅在化が有効と考えられた. 全例とも現在, 優れた音質に満足して人工中耳を使用しており, 術後2~4年の観察期間内に骨導低下や中耳炎の再燃等は認められなかった. 以上の結果より, 人工中耳が鼓室形成術による聴力改善の限界を補う一つの有望な難聴治療法であることが確認された. 現時点では, 人工中耳の性能上, 骨導閾値50dB以内の症例に適応が限定されるが, 従来の聴力改善手術では術後の補聴器装用が避けられない混合性難聴症例に対する外科的治療法として人工中耳の役割が期待される.

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