応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
那賀川汽水域における塩性湿地植物群落のハビタット評価
鎌田 磨人小倉 洋平
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 8 巻 2 号 p. 245-261

詳細
抄録

1.塩性湿地は人為的な影響により大きく改変されてきている生態系の一つで,多くの種が絶滅の危機に瀕している.こうした種や生態系の保全,修復を行っていくために,生態系の変化を予測し,評価するための簡単で合理的な手法の開発が必要である.そのような観点から,徳島県那賀川の河口域の一砂州上およびその周辺の干潟に発達している塩性湿地植物群落のハビタットの物理的構造を,比高および表層堆積物の粒径を用いて記載し,評価した.
2.2002年および2004年に,低空撮影された空中写真を携行した現地調査によって,植生図,比高階級図,表層堆積物の分布図を作成した.そして,それらの図をGISに入力した上でマップオーバーレイ解析を行い,塩性湿地植物群落が選好して生育する立地特性や,洪水による分布変化の空間的不均一性を把握した.2002年は先に発生した大規模洪水から4年ほど経過した後の,植生構造等が再生した状態が,一方,2004年は,大規模洪水による破壊直後の状態が表されている.
3.2002年には,塩性湿地植物群落であるハママツナ群落,ハマサジ群落,ウラギク群落,ナガミノオニシバ群落,イソヤマテンツキ群落は,比較的高い比高領域にも分布しているものの,大潮満潮位よりも低い場所に対しての選好性が高かった.そして,礫が表層に堆積しているところに分布し,細·中礫の領域に対して最も高い選好性を示した.
4.ハママツナ群落,ハマサジ群落,ウラギク群落等が低比高域に対して示した高い選好性は,これら群落が砂州·干潟に侵入した後の種間競争や,大規模洪水が発生する間に生じる小·中規模の洪水撹乱による影響の結果を反映し,また,これら群落が礫質領域にのみ分布することは,これら植物の種子や実生の潮汐·洪水による流出を,礫が防御した結果を反映したものであることが,文献から推察された.
5.2004年に起こった大規模な洪水によって,対象砂州は大きく浸食され,植物群落の多くは消失した.しかし,その影響は空間的に不均一で,ワンド領域では塩性湿地植物群落が残存していた.このことより,ワンドは塩性湿地植物群落のレフュージとして重要な機能を有することが確認された.
6.河口砂州·干潟のような撹乱を頻繁に受ける場所でハビタット評価を行うためには,1)調査時点での生物群の分布は必ずしもその選好性を反映したものとなっていない可能性があることに留意すべきこと,また,2)周辺の砂州·干潟を含む広い領域を対象にした物理環境の変動や,それに伴うメタ個体群構造動態の変化をも含めて評価するための論理·手法も検討していく必要があることについて言及した.

著者関連情報
© 2006 応用生態工学会
前の記事
feedback
Top