応用生態工学
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総説
炭素,窒素安定同位体自然存在比による河川環境の評価
高津 文人河口 洋一布川 雅典中村 太士
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2005 年 7 巻 2 号 p. 201-213

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抄録

第一節では,なじみの薄い安定同位体自然存在比による解析の有用性と,どういう理屈でそういった解析ができるのかについて,コップの中の塩水の例えを交えながら簡単に説明した.第二節では安定同位体自然存在比(δ(デルタ)値)の定義とその変動メカニズムの理論的側面を概説した.生物も含めたあらゆる物質の同位体比は,それが生み出される餌資源や基質の同位体比によって大きく支配されているが,その際に重要となる同位体交換平衡と速度論的同位体効果の理論的側面を説明した.第三節では安定同位体比による河川の環境評価の際に特に重要になる水生生物のδ13Cおよびδ15Nの変動メカニズムとそれから読み取れる環境変動の特質について議論した.水生植物のδ13Cおよびδ15Nからは光合成活性,炭素循環,窒素欠乏および富栄養化といった河川環境の変化を知ることができる.第四節では標津川の蛇行復元実験の行われた標津川の本流と河跡湖の水生生物の炭素,窒素安定同位体比(δ13C,δ15N)の測定結果を水生生物の同位体変動要因から解釈することで,本流と河跡湖の食物網構造の違いを明らかにした.最後に同位体分析法の優れた特質と限界について議論した.安定同位体比による環境評価は,その優れた側面と限界を意識したサンプリングおよび考察を行ってはじめて,正確で総合的な環境評価パラメーターとなる.

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© 2005 応用生態工学会
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