Medical Mycology Journal
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総説
急性骨髄性白血病の治療中にみられた陰嚢部フサリウム感染症
竹中 基
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2016 年 57 巻 2 号 p. J65-J70

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抄録

67歳,男性.長崎大学病院血液内科にて,急性骨髄性白血病のため,入院加療中であった.初診の1週間前から陰嚢に疼痛を伴う黒色壊死を付す潰瘍が生じたため,当科紹介となった.皮膚生検にて壊死とともに幅広い真菌要素が多数みられた.サブロー培地にて組織培養を行ったところ,灰白色絨毛状のコロニーが得られ,スライドカルチャーにて三日月型の大分生子が認められた.以上の所見からフサリウム感染症と診断し,ボリコナゾールの投与が開始された.後日,千葉大学真菌医学研究センターにて,Fusarium solani species complexに属するFusarium falciformeと同定された.ボリコナゾール投与にもかかわらず,陰嚢部の皮膚症状は治癒しなかったが,他の部位に症状が生じることはなく,β-D-グルカンも正常範囲内であった.早期からのボリコナゾール投与により,陰嚢部のみ限局したと考えた.初診から4ヵ月後に死亡された.わが国報告例は自験例を含め57例あったが,播種型が28例であり,単発例では,爪,手指,上肢,下肢に多くみられた.また,皮膚症状としては,潰瘍壊死,丘疹・結節,紅斑が多く,痛みを伴う症例が多かった.基礎疾患としては,急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病などの血液疾患が30例と最も多かった.治療は,アムホテリシンB単独使用例が最も多く,ついで,アムホテリシンBとボリコナゾールの併用例,ボリコナゾールの単独使用例であった.しかし,予後は不良で,転帰の記載のあった47例中21例が死亡していた.免疫不全状態,特に血液系悪性疾患の治療中に,痛みを伴う皮膚潰瘍や丘疹・結節を認めた場合,フサリウム感染症を当初から念頭に置いて,直接検鏡や培養検査などの対応をすることが重要と考えた.

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© 2016 日本医真菌学会
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