Medical Mycology Journal
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総説
ヒト好中球に特異的なラクトシルセラミドを介した感染免疫応答機構
岩渕 和久
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2018 年 59 巻 3 号 p. J51-J61

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抄録

メチニコフがわれわれの体の中に貪食細胞が存在することを発見してわずか100年しか経過していない.しかしながら,その間の分子生物学的手法の発展とともに,われわれがどのようにして外来の侵入者から自らの身を守っているかの免疫応答の分子機構が次々と明らかになっている.特に,外界から進入した病原微生物と最初に戦う自然免疫応答は,どのような微生物に対しても反応することから,当初は非特異的な反応とみなされてきた.ところが実際には,生物は自らの身を守るためにそれぞれ独自の分子を使って自らに有害となる微生物を認識,排除する巧みな仕組みとして自然免疫応答を発達させている.ラクトルセラミド(LacCer)は,1970年代からさまざまな微生物に特異的に結合することが示された中性のGSLである.LacCerはヒトの貪食細胞や上皮に好発現している.特に好中球はLacCerの脂質ラフトを介して,微生物に遊走し,貪食して活性酸素種産生などを使って微生物を排除する仕組みが発達している.一方で,マウスの血球にはLacCerはほとんど発現しておらず,LacCerを介した自然免疫応答を観察することはほとんどできない.結核菌はヒトに選択的に感染する病原微生物であり,本来マウスなどに感染することはほとんどない.興味深いことに,結核菌はヒト好中球のLacCerの脂質ラフトを介して自然免疫応答を巧みに制御することで貪食されても生き残ることができる.このことは,LacCerの脂質ラフトがヒトにおける自然免疫応答において重要な役割を果たしていることを示唆している.ここでは,LacCerを介したヒトの自然免疫応答についての最新知見を紹介する.

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© 2018 The Japanese Society for Medical Mycology
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