日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年医学の展望
高齢者肥満症の診断と治療
西影 星二廣田 勇士小川 渉
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2023 年 60 巻 4 号 p. 317-330

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抄録

本邦では高齢の肥満者の割合が増加しており,高齢者の肥満・肥満症患者への治療の重要性は高まっている.日本肥満学会は,2000年に世界に先駆けて「肥満に起因ないし関連して発症する健康障害を合併するか,その合併が予測される状態」を肥満症として定義し,BMIのみによって判定される「肥満」と治療医学の対象としての「肥満症」を明確に区別した.現在,本邦における肥満の定義は,脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で,BMI≧25 kg/m2のものと定めており,肥満症の定義は,「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測され,医学的に減量を必要とする疾患」と定めている.高度な肥満においては,高度ではない肥満と合併する健康障害などで異なった特徴を持つため,BMI≧35 kg/m2を高度肥満と定義しており,高度肥満を伴った肥満症を高度肥満症と定義している.減量目標として,肥満症では3~6カ月で現体重の3%以上を目標としている.高度肥満症では3~6カ月で現体重の5~10%を減量目標とし,合併する健康障害に応じて目標設定を行う.

高齢者の肥満症は若年者と同じ基準で診断されるが,加齢による身長の変化や浮腫などの合併によりBMIが体脂肪量を正確に反映しないことが少なくないため,注意が必要である.高齢者では高度な肥満でなければ,高齢者の肥満と心血管,認知症,死亡リスクとの関係はまだ明らかではなく,BMI高値の方が,死亡リスクがむしろ減少するobesity paradoxがみられる場合がある.一方で,高齢者でも内臓脂肪量の増加と死亡リスクには関連があるとされている.日本老年医学会はそうした高齢者肥満症特有の認知症やADL低下といった視点を取り入れた「高齢者肥満症診療ガイドライン2018」を発刊した.日本肥満学会が2022年に発刊した「肥満症診療ガイドライン2022」では,「高齢者の肥満と肥満症」の章を新たに設けた.高齢者の肥満・肥満症では,サルコペニア肥満をきたしやすいため,肥満症治療においても個々のリスクを考慮した上で減量のための食事療法や運動療法を行う必要がある.

減量・代謝改善手術の経験豊富な施設においては,減量・代謝改善手術は高齢者高度肥満症患者の治療選択肢のひとつとして考慮され,今後高齢者肥満症では,さらに個別化した肥満症診療が望まれる.

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© 2023 一般社団法人 日本老年医学会
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