日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
運動性失語で発症した高齢者症候性くも膜囊胞の1例
木村 和人福田 健志三善 健矢薮田 昭典
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2022 年 59 巻 2 号 p. 219-224

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抄録

乳癌,右橈骨遠位端骨折,頸椎症等の既往のある83歳女性が,9年前よりくも膜囊胞を指摘されていた.1年ほど前より言葉の出づらさ,歩行困難も出現したため近医を受診した.しかしながら加齢や頸椎症の既往,過去の骨折の影響と診断されていた.

当科受診時,意識清明,軽度の右不全片麻痺,書字不能,軽度の運動性失語を認めた.頭部MRIでは,左前頭円蓋部に長径10 cmの造影効果を認めないくも膜囊胞を認め正中偏位を呈していた.右不全片麻痺や運動性失語の原因はくも膜囊胞増大による左大脳半球の圧排と診断し,全身麻酔下で開頭術による囊胞被膜の切除,および囊胞―腹腔シャント術を施行した.術後1週間ほどで書字が可能になり,運動性失語も改善した.術後20日目に自宅退院となった.

小児期以降でくも膜囊胞が増大することは稀である.今回我々は高齢者症候性くも膜囊胞を手術により良好な結果を得られた.稀ではあるが,老年期に長期間を経てくも膜囊胞が増大し症候性となり得ることを銘記すべきである.

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© 2022 一般社団法人 日本老年医学会
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