日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
尊厳を守るには:大規模団地で孤立する高齢者の意思決定支援を振り返る
岡村 毅杉山 美香枝広 あや子宮前 史子釘宮 由紀子岡村 睦子粟田 主一
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2020 年 57 巻 4 号 p. 467-474

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抄録

目的:多職種の関わったある意思決定支援を深掘りすることで,尊厳を守ることを可能にする条件について明らかにする.方法:われわれは,疫学調査(研究者として)と地域支援(専門家として)を並行して行うコミュニティ参加型研究を都市部大規模団地で行ってきた.そこで社会的孤立状態にあり,医療を自ら中断した80歳代の男性に出会い,3年にわたり継続して関わり,終末期まで支援するという経験をした.そこで1)ワーキンググループで支援記録を分析して経過表を作成し,2)関係した専門家へのインデプスインタビューおよび振り返りのための多職種ケース会議をおこない,逐語録を分析して経過表の各段階に対応した意思決定支援をまとめ,3)本事例においてみられた意思の特性を明らかにし,4)意思決定支援において尊厳を可能にする条件について考察した.結果:意思について,1)明文化されたものだけではない,2)移ろうからこそチームで支える,3)意思決定支援はプロセスである,という特性が挙げられた.医療において尊厳を守ることを可能にする意思決定支援であるためには,1)医療的な事実のみが重要と思わないこと,2)意志は移ろうかもしれないが待つ時期をもつこと,3)社会や他者と関係を続けられるような支援をすること,が導き出された.結論:一見すると医療拒否ともとられる孤立した人の意思決定支援を振り返った.尊厳とは何かという問いに答えることは容易ではないが,意思決定支援のプロセスにおいてどのように尊厳を守ることができるのか,について事例に即して深掘りした.臨床現場ではこのような困難で複雑な事例は多いが,ガイドラインでの記述は難しく,1例の深掘りで迫ることには意味がある.

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© 2020 一般社団法人 日本老年医学会
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