2018 年 55 巻 4 号 p. 657-662
在宅では看護師が排便を直接観察できない場合があり,特に認知機能が低下した高齢者では客観的指標による便秘症状の評価が難しいため,症状に応じた排便ケアが提供できていない可能性がある.そこで我々は超音波検査(エコー)により直腸の便の有無が確認できることをこれまで明らかにしてきたが,エコーにより便性状と量を区別できるかは明らかになっていない.今回,便性状の異なる3症例において直腸エコーによる便性状と便量の評価が可能かを検討したので報告する.長期療養型施設に入院する高齢者3名を対象にし,排便後より次回排便後まで,直腸のエコー画像を経時的に収集した.直腸のエコー所見および直腸に高エコー域が確認された場合は,その長径(連続した高エコー域の始点と終点を結ぶ直線の長さ)を計測した.エコー所見と便性状は研究者が直接観察し,ブリストル便性状スコア(以下BS)によって評価した.症例1:94歳男性で,便性状はBSタイプ4の普通便であった.直腸エコーでは,排便後より次回排便後に至るまで,直腸内腔に後方音響陰影を伴わないCrescent shapeの高エコー域が観察された.高エコー域の長径は観察期間中に徐々に上昇し,排便後に低下した.症例2:92歳女性で,便性状はBSタイプ1の硬便であった.直腸エコーでは,排便後より次回排便後に至るまで,直腸内腔に後方音響陰影を伴うCrescent shapeの強い高エコー域が観察された.高エコー域の長径は観察期間中に徐々に上昇し,排便後に低下した.症例3:67歳男性で,BSタイプ7の水様便であった.直腸エコーでは,Crescent shapeの高エコー域を認めず,後方音響陰影を伴わない全周性の低エコー域が観察された.硬便の有無は後方音響陰影を伴うCrescent shapeの強い高エコー域の有無で評価できる可能性があり,Crescent shapeの高エコー域の長径により便量を評価できる可能性がある.今後エコーを用いて評価した便性状・便量に基づく排便ケア選択が可能となると考えられる.