日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
抑肝散による著明な低K血症で緊急入院となった81歳女性認知症患者の1例
西山 直樹竹下 雅子田中 健一郎宮尾 益理子水野 有三
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 48 巻 5 号 p. 553-557

詳細
抄録

症例は81歳女性.高血圧でA病院,アルツハイマー型認知症でB病院に通院し,6カ月前より昼夜逆転,不穏等の周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に対し抑肝散7.5 gの投与が開始された.2009年某日,デイケア中に気分不快,嘔気,高血圧(SBP 200 mmHg以上)を認め,著明な低K血症(1.29 mEq/l)と心電図異常を呈していたため当院へ緊急入院した.入院時検査で代謝性アルカローシスと尿中K排泄亢進,低レニン・低アルドステロン血症を認めた.甘草を含有する抑肝散による偽性アルドステロン症と診断し,同剤中止とK補充にて2週間後にK値はほぼ正常化したが,BPSDはチアプリド,リスペリドン投与にてもコントロール困難であった.高齢社会における認知症患者の増加に伴い,その周辺症状も深刻な問題になっている.その治療薬の1つとして抑肝散の有効性が注目され,非定型向精神病薬よりも副作用が比較的少ない事から,その処方量は近年急増している.しかし,偽性アルドステロン症は死亡例の報告も有り,用量依存性発症ではないため発見が難しい.抑肝散の需要は今後も増加する事が予想され,高血圧,電解質異常などの副作用に改めて注意を喚起しつつ,この薬剤を認知症治療に活かす事が重要であると考え,文献的考察を加えて症例を報告する.

著者関連情報
© 2011 一般社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top