日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
高齢入院患者の血清マグネシウム値への腎機能障害と酸化マグネシウム投与の影響
齊藤 昇
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2011 年 48 巻 3 号 p. 263-270

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抄録

目的:高齢入院患者は慢性便秘症を伴い勝ちで,緩下剤として酸化マグネシウム(MgO)が処方される機会も多く,また腎機能障害例も少なくない.MgO服用により血清マグネシウム(Mg)は増加傾向で,この時腎機能低下があれば血清Mgはさらに増加する.平成20年にMgO服用による副作用が問題となった.そこで高齢入院患者でMgO 1日0.5~3 gの使用が血清Mgにどう影響するかを腎機能と関連させて調べた.方法:高齢入院患者延べ1,282例(男505,女777),平均79.6歳が対象であった.早朝空腹時に採血し,血清Mgをキシリジルブルー法により測定した.推算糸球体ろ過量(estimated glomerular filtration rate,eGFR)が計算された.このeGFR(ml /min/1.73 m2)により症例を5群に分け,eGFR 30未満(第1群),30以上,60未満(第2群),60以上,90未満(第3群),90以上,130未満(第4群),130以上(第5群)とした.4群で分ける場合には第1~3群は上記と同じで,90以上をまとめて第4群とした.1 入院患者をMgO無しの552例(男212,女340),平均79.5歳とMgO服用の272例(男115,女157),78歳に分け,それぞれeGFRにより5群にさらに分類した.これら各群につき血清Mgの分布を調べた.2 MgO無しとMgO服用とを比較した.男性ではMgO無しの22例,平均79.4歳とMgO服用の18例,79.2歳であり,女性ではそれぞれ39例,84.2歳と30例,82.4歳であった.3 4症例(男1,女3),平均86.8歳の経過を4~14カ月観察した.4 MgO無しの88例(男31,女57),平均81歳と,MgO 1日0.5~1.5 g服用の116例(男42,女74),80.3歳と,MgO 1日2~3 g服用の118例(男55,女63),78.5歳との3集団を比較した.5 血清Mg3.8 mg/dl 以上(基準値1.7~2.6 mg/dl)の症例でMgO無し7例(男2,女5),平均84.2歳とMgO服用16例(男7,女9),85.7歳とを比較した.結果:1 eGFRによる5群ではMgO服用例でMgO無しの例に比較し,第1群は第3~5群に比較し血清Mgはより高い値の分布をχ2で有意に示した.2 MgO無しの男性平均6.9カ月,女性6.4カ月の経過でeGFRは有意に低下し,血清Mgは有意に増加した.MgO服用の男性6.1カ月,女性10カ月ではeGFRは有意な変化でなかったが,血清Mgは有意に増加した.3 4症例ではeGFRが低下すれば血清Mgが高くなり,その逆もあった.4 eGFRによる4群すべてでMgO無しに比較しMgO服用で血清Mgは有意に高かった.MgO無しでは第1群で第3,4群に比較し血清Mgは有意に高かった.MgO服用量による比較では第1群のみで1日2~3 gは0.5~1.5 gよりも血清Mgは有意に高くなった.5 血清Mg3.8 mg/dl 以上の症例をMgO無しとMgO服用に分けると,血清Mgは両者でほぼ同じで,eGFRはMgO無しで有意に低かった.血清Mgの最高値はMgO無しで5.2 mg/dl,MgO服用で5.9 mg/dl であった.結論:入院患者についてMgO服用で血清Mgは増加し,またeGFRの低下は血清Mgを増加させた.特にeGFRが30 ml /min/1.73 m2未満(第1群)では血清Mgは高かった.

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© 2011 一般社団法人 日本老年医学会
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