日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
第51回日本老年医学会学術集会記録〈教育講演〉
高齢者の排便障害
味村 俊樹
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2009 年 46 巻 5 号 p. 398-401

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抄録

便失禁や便秘などの排便障害は加齢とともに増加し,65歳以上での有症率は,便失禁で7%,便秘で30%程度とされる.その原因として,加齢に伴う肛門括約筋を含む骨盤底筋群の脆弱化や協調運動障害,腹筋の筋力低下,大腸の蠕動運動低下などが挙げられる.また両症状の原因となる脳卒中,認知症,パーキンソン病などの基礎疾患が高齢者で増加することも関与している.これらの症状は生命に関わらないために軽視されがちだが,日常生活や心理面に多大な影響を及ぼすため,原因や病態に応じた適切な治療を行うことが望ましい.
平成20年8月に高知大学医学部附属病院に新設された骨盤機能センターでは,骨盤底機能障害としての便失禁や便秘を専門的に診療している.開設以来の9カ月間に便秘128名,便秘と便失禁31名,便失禁51名が初診し,そのうち65歳以上の高齢者は,各々102名(80%),22名(71%),39名(76%)であった.本稿では,この排便障害のうち便失禁と高齢者における特徴に関して概説する.
便失禁は症状名であり,その原因となる病態は多数存在する.その病態を解明するためには,症状,内服薬を含めた既往歴,直腸肛門機能検査による客観的機能評価,肛門超音波検査による解剖学的評価を総合して診断する必要がある.便失禁の原因に関する高齢者の特徴は,肛門括約筋収縮力の低下,直腸性便秘による溢流性便失禁,便秘に対する下剤の過量であり,便失禁治療の主体は,ポリカルボフィルカルシウムや塩酸ロペラミドによる便性の固形化である.

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© 2009 一般社団法人 日本老年医学会
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