日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
透析導入過程の諸事象の規定要因分析における落とし穴
年齢の係わりを失わせる対象の変容
藤巻 博粕谷 豊原 志野川口 祥子古賀 史郎高橋 忠雄水野 正一
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2004 年 41 巻 6 号 p. 653-659

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抄録

私共は東京都老人医療センターにおける慢性腎不全症例を対象として, 透析導入過程の主要事象 (透析導入の是非, 透析導入の緊急度, 病状軽快の可否, および家庭復帰の可否) について, 多変量ロジスティック回帰分析を用いて規定要因の検討を行ってきた. 多くの事象で年齢は規定要因になるものと思われたが, 年齢の係わりを認めた事象は「導入の是非」だけであった. 年齢の係わりを失わせる落とし穴の存在を私共は疑った.
事象毎に規定要因が得られていたことを落とし穴発見の手掛かりとした. 事象毎の規定要因は脱落症例の例数とそれらの性状から導かれた. このことを非脱落症例の側からみると, 透析導入過程の進行は対象の変容を伴っていた可能性が推測された. ここでは落とし穴を「対象の変容」に求めてみた.
対象の変容は, 平均年齢の低下, 歩行可能例の割合の増加, および認知機能良好例の割合の増加として捉えられた. また, 後期高齢の症例は歩行可能で認知機能良好な症例に限定される傾向が生じていた. 言い換えると, 歩行機能と認知機能における加齢変化が,「導入の是非」以降の対象に持ち込まれていなかった. これらの対象の変容は, 規定要因分析における年齢の係わりを失わせるものであった. 私共は対象の変容を落とし穴の実態と推定した. 後期高齢者を対象に含む規定要因分析では, 性状における加齢変化が対象にどの程度持ち込まれているかを明らかにしておかなければならない.

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