日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
重度痴呆患者における歯ブラシ行動再習慣化の試み
内村 美由紀包 隆穂菊谷 武稲葉 繁齊藤 昇
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2001 年 38 巻 3 号 p. 366-371

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抄録

病院に入院中の重度痴呆患者に対して歯ブラシ行動が習慣化可能か否か検証した. 今回の研究目的には患者の口腔衛生状態の改善, 職員教育, 作業療法学的アプローチの有効性の検討, 多職種による職域を越えたケアとADL訓練の試みを含み, 多重的で極めて臨床的な計画のもとに実施した.
対象患者は血管性痴呆女性患者6名 (平均年齢84歳) で, 同室にて入院加療中であった. 全員, 歩行可能だが正常なコミュニケーションは困難だった. 口腔内の状態は有歯顎者は4名 (平均11.3歯), 義歯の使用者は4名であった. 本研究のアプローチ法は歯科, 作業療法士が操作を加えずに観察と評価を行う観察期 (a) から開始し, 作業療法士, 歯科医師, 歯科衛生士, 看護婦, 補助看護婦が協力する総合アプローチ期 (b), 再び観察と評価のみを行う観察期 (c) の3期で計画, 実施した. 約1年のアプローチの結果, ほぼ毎日のセルフケアが特定の介助のもと可能になったものの自立的な習慣とはならなかった. パフォーマンスについては6名中4名向上, 1名は変化無し, 1名は低下を示した. 口腔内についてはセルフケアのみ, または歯科以外のスタッフにより衛生状態を有意に向上させることはできず, 改めて歯科スタッフによるプロフェッショナルオーラルヘルスケアと職種を越えて評価, 治療にあたる超職種型チームアプローチの重要性が示された.
今回実施した多職種による総合的なアプローチは病院でのチームアプローチの質的向上と治療環境の形成を可能にし, 持続的に喪失されていく痴呆患者の合目的活動の維持と向上の方法論を提示した.

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