日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢にて発症した全身性硬化症と全身性ループスエリテマトーデスのオーバーラップ症候群の一例
武田 憲文寺本 信嗣尹 浩信荒尾 敏弘松瀬 健鳥羽 研二玉置 邦彦大内 尉義
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2000 年 37 巻 1 号 p. 74-79

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抄録

全身性硬化症 (Systemic sclerosis, SSc), 全身性ループスエリテマトーデス (Systemic lupus erythematosus, SLE) は若年から成年で発症することが多く, 70歳以降での発症は稀である.
我々は, 80歳以降に間質性肺炎の進行によって気づかれた高齢SSc症例に胸水貯留を認め, 治療中にSLEの併存を診断し, 両者の overlap 症候群と考えられる症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告した.
症例は, 88歳女性で2年前より間質性肺炎などからSScと診断されていた. 平成11年2月頃より関節痛, 食欲不振がみられ, 4月上旬より傾眠がちになり, 4月17日当院救急外来を受診した. 胸部X線写真上両下肺野から上肺野に間質性陰影を認め, 右下肺野に胸水貯留と思われる透過性の低下を認めた. 但し, 炎症所見は軽度であったため, 補液で管理し, 脱水の補正とともに食欲も日常生活動作も改善した.
しかし, その後も胸水貯留が継続するため精査したところ抗Scl-70抗体とともに抗Sm抗体が検出され, SScとSLEの overlap 症候群と考えられた. 胸水は浸出性であり, 他に明らかな原因がないことからSLEによる胸膜炎とそれに伴う胸水と考えられた. 炎症所見は, 入院1週間以降改善したが, 赤沈は亢進していた. ステロイドによる治療も考慮したが, 以前にプレドニンに対するアレルギーがあったこと, 酸素投与下ではあるがガス交換は良好であり, 日常生活動作は自立し, 入院以前の状態まで改善していたことより, 非ステロイド系消炎鎮痛剤の頓服にて対処し, ステロイド治療は行わなかった.
高齢発症のSScは少なく, さらにSLEとの overlap 症候群は稀であるが, SScで胸膜炎が疑われる症例では, 高齢者であっても他の膠原病を含めた全身検索が必要であると考えられた.

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