日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
多彩な心電図変化を呈した高齢者3枝冠動脈疾患の1例
川田 啓之川本 篤彦渡辺 眞言上村 史朗坂口 泰弘山野 繁藤本 眞一橋本 俊雄土肥 和紘
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1999 年 36 巻 10 号 p. 734-741

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抄録

82歳, 女性. 平成9年1月17日に呼吸困難と胸痛を自覚しており, 両下腿の浮腫, 四肢末梢のチアノーゼ, および起坐呼吸も出現したので当科に入院した.
経過: 血清CK値は, 入院時に488IU/lまで増加しており, 8時間後には最高値の4,866IU/lに達した. 入院時の心臓超音波検査所見では全周性の左室壁運動低下, 心電図所見では不完全右脚ブロックおよび2:1の房室ブロックが認められた. 心電図は, 入院10時間後には完全左脚ブロック, 第3病日には正常洞調律を示した. 以上の検査成績から, 急性心筋炎あるいは急性心筋梗塞が疑われた. 第13病日に施行した右室心内膜心筋生検所見では心筋に軽度の変性と心筋細胞周囲に線維化が認められたが, 炎症細胞の浸潤を欠いていたので急性心筋炎が否定的であり, 本例は心筋炎後の慢性期に一致するものと考えられた. 心不全改善後の第45病日に退院した. 退院18日後, 心不全が再燃したので当科に再入院した. 心不全改善後の第20病日に冠動脈造影を施行した. 右冠動脈造影では, Seg1が75%, Seg2~3の移行部が99%の狭窄を示した. 左冠動脈造影では, 左前下行枝Seg6の起始部と末梢側が75%, 左回旋枝Seg13が75%の狭窄を示しており, 3枝疾患と診断された. 冠動脈バイパス術が考慮されたが, 本人および家族が同手術を拒否したので, 第60病日に退院した.
まとめ: 経過中に多彩な心電図変化を呈した高齢者3枝冠動脈疾患の1例を経験した. 本例は, 加齢と心筋炎後の心筋変性による心機能低下が入院前から不顕性に存在していたうえに3枝冠動脈疾患を合併していたために全周性の左室壁運動低下を示し, 心不全と多彩な不整脈が出現したと考えられる. 以上のような複雑な病態を明らかにするためには, 高齢者に対しても冠動脈造影や心筋生検を積極的に施行すべきであると考えられる.

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