日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者の総頸動脈血流動態に及ぼす長期降圧薬治療の影響
山野 繁澤井 伸之南 繁敏野村 久美子山本 雄太福井 理恵高岡 稔土肥 和紘
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1997 年 34 巻 11 号 p. 920-928

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抄録

高血圧は, 脳血管障害発症の重要な危険因子の一つである. しかし, 降圧薬の長期投与が脳血管障害発症前の老年者の脳循環に及ぼす影響については明らかにされていない. そこで, 単剤の長期降圧薬治療が老年者の脳循環に与える影響を検討する一環として, 総頸動脈血流動態に及ぼす影響を検討した.
対象は, 当科に通院中の本態性高血圧症患者のうち, 診療録から単剤の降圧薬治療が5年以上実施され, しかも治療前と治療開始5年後に総頸動脈血流動態が測定されていた老年者84例 (平均67歳: H群) である. H群を降圧薬の種類から, 降圧利尿薬群 (D群) 40例 (平均66歳), カルシウム拮抗薬群 (C群)28例 (平均68歳), およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬群 (A群) 16例 (平均68歳) に分けた. 対照群には, H群と年齢と性別を一致させた正常血圧者 (N群) 49例 (男性29例, 女性20例, 平均67歳) を選んだ. 総頸動脈血流動態の指標は, 林電気製QFM-1000による右総頸動脈平均血流量BFと循環抵抗Zとした. BFとZを降圧薬治療開始前と開始5年後の2回測定し, 年平均のBFとZ変化量 (ΔBFおよびΔZ) を算出して評価した. 同時に平均血圧 (MBP) の変化量 (ΔMBP) を求めた. SBP, DBP, およびMBPは, 3群全群で治療開始前に比して治療開始後5年に有意に低下した. ΔBFは, N群に比してD群で有意に低値を示した. C群とA群のΔBFは, 両群ともにN群と差がなかった. D群, A群,およびN群のΔZは3群間で差がなかった. 一方, C群のΔZは, D群およびN群に比して有意に低値を示した. また, C群のΔZは, ΔMBPと有意の正相関 (r=0.58, p<0.01) を示した.
以上から, カルシウム拮抗薬の長期投与は脳末梢循環抵抗の増加抑制作用があり, アンジオテンシン変換酵素阻害薬も総頸動脈血流動態に悪影響を及ぼさないことから, 両薬物は老年者本態性高血圧の治療に有用である.

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