日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
慢性痒疹よりMRSA敗血症を発症し, 外用剤 (3%酢酸を含有する吉草酸ジフルコルトロン軟膏) 治療により改善した後期高齢者の1例
佐伯 秀幸棟田 慎二郎小林 卓正広田 雄一
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キーワード: MRSA敗血症, 皮疹, 高齢者
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1997 年 34 巻 8 号 p. 672-677

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抄録

症例は80歳, 女性. 近医で降圧薬を投与されていたが, 1996年1月より皮疹, 全身そう痒感が出現するようになった. 降圧薬を中止したが皮疹は軽快せず, 5月中旬から38℃台の発熱, リンパ節腫大も出現するようになったため当科に入院した. 入院時, ほぼ全身に丘疹を認め, 掻破により浸潤, 肥厚, 苔癬化していた. また, 頸部・腋窩・鼠径部の表在リンパ節が腫大しており, 皮疹は慢性痒疹と考えられた. 一般臨床検査では慢性炎症所見, 貧血, IgEの高値を認めたが, 明らかな基礎疾患は認めなかった. また, 末梢血リンパ球の表面マーカー分析で異常を認めなかった. 血液からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (Methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) が検出され, MRSA敗血症と診断し, バンコマイシン, ミノサイクリンおよびセフォペラゾン・スルバクタムの投与を開始した. 投与後約1カ月目には炎症所見の改善傾向を認めたが, その後も37℃前後の微熱, 皮疹, CRPの高値が持続した. 皮疹は掻破により湿疹化し, 同部位からMRSAが検出された. 皮疹がMRSAの侵入門戸と考えられたため, 3%酢酸を含有した吉草酸ジフルコルトロン軟膏の塗布を開始したところ, 皮疹の改善とともに微熱, 表在リンパ節腫脹および炎症所見は速やかに正常化した.
一般的に, MRSA感染症は重篤な基礎疾患を有する患者に発症する. 今回, 私達は明らかな基礎疾患, 免疫学的異常のない高齢者において慢性痒疹からMRSA敗血症を発症し, 外用剤により改善した症例を経験した. 本症例のように高齢者において薬剤アレルギーによる皮疹からMRSA敗血症を発症した報告は過去になく, 貴重な症例と考えられた. また, 基礎疾患がなくても高齢であること自体がMRSA敗血症の背景因子として重要であると考えられた.

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