日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者悪性腫瘍における貧血に関する臨床的検討
菊地 基雄稲垣 俊明今井田 克巳小松 弘和坂野 章吾脇田 充史仁田 正和上田 龍三
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1996 年 33 巻 10 号 p. 768-773

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抄録

高齢者で悪性腫瘍による貧血のうち, 肺癌, 胃癌, 結腸癌, 膵臓癌, 肝臓癌について貧血の併発時期, 予後に及ぼす影響を検討した.
対象は当院で診療を受け, 病理解剖を行った70歳以上の高齢者88例で, 癌が認められない非癌群と, 悪性腫瘍を認めた群にわけ検討した. 悪性腫瘍例について, 死亡時より3, 6, 12, 24, 36, 48, 60カ月前のヘモグロビン濃度 (Hgb), 赤血球恒数を測定し, 生存期間, 輸血の影響を検討した.
生前に確定診断できたものは, 57例であった. 確定診断から死亡までの平均生存期間は胃癌11カ月, 結腸癌9カ月, 肺癌7カ月などであった. 死亡24カ月まではHgb, MCV, MCHの有意な低下, 上昇はみられなかった. 胃癌, 結腸癌は診断時にMCV, MCHは低下し, 肺癌ではMCV, MCHの変動は死亡直前まで認められなかった. 貧血群の平均生存期間は結腸癌で非貧血群が長かった. 輸血は胃癌, 結腸癌で多く, 結腸癌で輸血群の生存期間がやや長かった.
以上より, 高齢者のヘモグロビン濃度を経時的に観察することは, 悪性腫瘍の早期発見に有効なことがあり, 赤血球恒数などから貧血の病態を検討することは, 高齢者の癌患者の治療方法を検討する上で有意義であると考えられた.

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