日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者における橋病変の臨床病理学的検討
稲垣 亜紀稲垣 俊明橋詰 良夫小鹿 幸生
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1996 年 33 巻 7 号 p. 524-531

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抄録

名古屋市厚生院の高齢者305剖検例の橋の橋底部多巣性海綿状壊死, central pontine myelinolysis (以下CPMと略す), 脳血管障害について臨床病理学的に検討した.
橋底部多巣性海綿状壊死は4例 (1.3%) に認められた. 組織学的には橋底部中央に境界明瞭な小さい海綿状態が多発していた. この部位の髄鞘と軸索は脱落していたが, 反応性のグリオーシスや炎症性細胞浸潤は認められなかった. 病巣は3例が横橋線維に限局し, 1例が横橋線維と橋縦束に認められ, それらの最大の面積は1.6mm2であった.
CPMは Klüver-Barrera 染色で橋底部に比較的境界が明瞭で髄鞘の淡明化を認めた15例について検討した. 組織学的に髄鞘脱落部にマクロファージの浸潤やオリゴデンドログリアの脱落, 反応性のアストロサイトの出現が確認され, CPMと診断された症例は1例 (0.3%) のみであった. 他の14例は, CPM類似の橋底部髄鞘淡明化を示し, CPMの極めて初期の軽い病変の可能性が示唆された.
脳血管性病変の検討では, 肉眼的に血腫を形成する橋出血は認められず, 組織学的検索にて15例 (4.9%) に点状の出血性病変が認められた. これらのすべてが高血圧に伴う細小動脈の血管周囲の漏出性, 陳旧性の小出血であった. 橋梗塞は77例 (25.2%) に認められた. これらのうち22例は肉眼的に梗塞が確認され, 55例は組織学的に梗塞が確認された. 梗塞巣の面積は1mm2未満の小さいものが74.0%であった. 梗塞の好発部位は短周辺枝領域36.5%, 傍正中枝と短周辺枝の境界領域が35.1%であった. 橋のみに梗塞が限局していたのは3例のみで, 74例は他部位にも梗塞の合併が認められた.

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