1994 年 31 巻 8 号 p. 596-603
魚脂中に多く含まれる多価不飽和脂肪酸の中でもとりわけエイコサペンタエン酸 (EPA) が血清脂質改善, 血小板凝集能の抑制, 赤血球変形能の改善, 血液粘度の低下作用など多岐に亘る作用により抗血栓, 抗動脈硬化作用を発揮することが近年明らかとされつつある. 高齢者では明らかな症状を認めず一見健常に見える者のなかにも, 脳のMRI (Magnetic resonance imaging) をとると多発性の脳梗塞を認め, 血栓症予備群ともいえる者が多い. 今回我々は, 高齢者における血栓性疾患進展予防に対するEPA投与の有効性を見るため, 少量EPA投与による血小板, 赤血球機能の変化を検討した. 老人保健施設に入所し, 生活環境に適応し同じ給食を食べ, 特に治療を受けておらず, 明らかな脳血管障害の既往歴を有さない36名の高齢者 (平均年齢78歳) を12名ずつ3群に分け, EPAを多量に含む魚油濃縮物 (1capにEPAを84mg含有) を各群に0, 3または6cap/day, 1カ月間連続投与し投与前後の血漿脂肪酸構成, 血小板凝集能, 全血粘度, 赤血球変形能を測定した. コントロールとして若年者 (平均年齢41歳) に同じカプセル6capを1カ月間投与し血漿脂肪酸構成の変化を高齢者と比較した. 老人施設の給食は一週間分のメニューを分析し, 一日の脂肪酸摂取量 (リノール酸, アラキドン酸, EPA及びDHA) を算出した. 魚油濃縮物1カ月摂取 (EPA換算で0.25~0.5g/day) により, 高齢者では血漿総脂質分画のEPA含量は用量依存性に増加し, それに伴いADP, コラーゲンによる血小板凝集能の抑制及び赤血球変形能, 血液粘度の改善が認められた. 高齢者では若年者に比し少量の魚油濃縮物投与により血漿中のEPAの増加が見られ, これに伴い血小板, 赤血球機能の改善が見られた. EPAを多量に含む魚油濃縮物は副作用なく長期間の使用が可能であり, これら血球の機能の改善は高齢者での血液の安定化に寄与し, 脳血管障害を始めとする血栓性疾患の発症予防に期待が持てる.