日本畜産学会報
Online ISSN : 1880-8255
Print ISSN : 1346-907X
ISSN-L : 1880-8255
家畜の労役生理に関する研究
IV 労役が脈搏数に及ぼす影響(I)
上坂 章次加藤 正信三好 康之
著者情報
ジャーナル フリー

1956 年 27 巻 2 号 p. 143-150

詳細
抄録

体重約26kgの2才の去勢山羊2頭を用い,一定の速度で廻転しているトレツドミル上を歩行させて,けん引抵抗2kg,3kg,4kg,5kgの4種類,けん引時間10分,20分,30分の3種類,合計12種類の仕事を課し,労役前,労役中,労役直後,回復期2分毎の脈搏数を聴心器により測定した。労役中は2分毎にトレツドミルをとめて速かにこれを測定した。その結果,労役が脈搏曲線に及ぼす影響につき,つぎのような成績をえた。
(1) 労役により脈搏数は急に上昇し,ことに最初の2分間の上昇は著しく,これを初期上昇という。次いで労役の継続中,脈搏数はけん引抵抗により若干様相は異る家畜の労役生理が,緩慢な上昇を続ける。これを後期上昇という。労役が終ると,脈搏数は急に減少する。ことに最初の2分間の下降は著しい。これを初期下降という。ついで脈搏数は緩慢に減少し,やがす労役前に回復する。この労役終了後2分以後の緩慢な下降を後期下降という。
(2) 初期上昇の上昇率は,けん引抵抗に比例して大となるが,けん引抵抗3kgと4kgとの間の上昇率の開きは他の場合に比し大である。したがつてけん引抵抗だけについていえば,この辺が山羊にとつてのmoderateとoverloadとの限界かと思われる。また上昇率は個体によつて差異がある。
(3) 後期上昇は30分労役において,けん引抵抗2kg及び3kgの時には殆ど水平または極く少しの増加であるがけん引抵抗4kg及び5kgの場合はかなり急な角度で上昇する。これからみても,けん引抵抗が4kgを越すと成出羊にとつてかなり重い仕事になることがわかる。
(4)初期下降の下降率も,けん引時間の長短にかかわらず,けん引抵抗に比例して大となる。しかもけん引抵抗3kgの場合と4kgの場合との開きが他の場合より大で,これは初期上昇の場合と同様である。ただし,この率そのものの絶対値は初期下降率の方が初期上昇率よりも若干大である。またこの初期下降率にも個体差がある。
(5) 後期下降を示す曲線の角度はけん引時間の長短にかかわらずけん引抵抗の2kg及び3kgの場合はゆるく,けん引抵抗がそれより大となるにつれて大となる。この様相は前述の後期上昇の場合に似ている。
(6) 脈搏曲線がその底と占める面積をプラニメーターで湖定し,仕事量1kgmりのこの面積を計算しすみると,同じ仕事においても1kg当りのこの面積に著しい個体差がみられ,一般に山羊が楽そうに仕事をした場合には,この面積は大であり,苦しそうな仕事振りの時にはこの面積が小である。
(7) 従来脈搏曲線はその回復期の型及び回復復迄の時間などにより疲労回復判定の一つの指標として胴いられがちであるが,今後詳細に研究してゆけば,上述の初期上昇及び後期上昇の様相なども疲労判定の一助になるのではないかと思われる。

著者関連情報
© 社団法人日本畜産学会
前の記事 次の記事
feedback
Top