抄録
本稿は文章に占める漢字の割合(漢字含有率)に着眼し,その変遷を示すことによって昭和・平成期における漢字使用の実態について概観するものである.そのために本稿では漢字使用の実態が媒体やジャンルによって異なるとする指摘を踏まえつつ同時期の小説を対象とした調査と並行するようにして雑誌『文藝春秋』を対象とした同様の調査を実施した.その結果,大局的に見れば,漢字含有率は20世紀の中葉までは減少するが,そこからは小幅な変動に留まるという点において雑誌も小説も概ね同様の傾向を示すことが明らかになった.ただし,そもそも小説に比して雑誌は概して漢字が多いことや20世紀の末葉からは以前の水準には及ばないものの微増とも見られることは雑誌における漢字使用の実態が小説におけるそれと異なる可能性を示すものである.