日本歯周病学会会誌
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人工透析患者の歯周病罹患度に関する疫学的研究
大場 堂信赤沢 佳代子二宮 洋介桐野 晃教明丸 倫子石本 智子戸野 早由利中村 輝夫片岡 正俊篠原 啓之木戸 淳一永田 俊彦
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2000 年 42 巻 4 号 p. 307-313

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抄録

わが国で腎不全により人工透析を受けている患者は現在約18万人いると言われている。透析処置では腎臓のすべての機能を補うことはできず, 例えばエリスロポエチンの産生やビタミンD3の活性化といった生体にとって重要な反応が行われなくなる。これらの腎機能障害に由来した骨病変は透析患者にみられる主要な副作用の一つである。著者らは人工透析処置を受けている慢性腎不全患者は歯周病に対する感受性の高い集団ではないかと考え, その関連を追求するために透析患者38名の歯周組織診査を行った。対照群として同年代の健常者42名を選び, 同様の歯周組織診査を行った。CPITN (歯周治療必要度指数) を調べた結果, 透析患者群は対照群より高い値を示した (2.4±0.1 vs. 1.9±0.1; p<0.05)。CI-S (簡略化歯石指数) では, 2群間に有意差は認められなかった。欠損歯数では, 透析群の方が2.2倍多かった (6.1±1.3 vs. 2.8±0.8; p<0.05)。次に, 透析期間の違いによって患者を4グループに分けて分析したところ, 指標値に差は認められなかった。また, 透析患者の血中PTH (副甲状腺ホルモン) 濃度と歯槽骨レベルならびにCPITNとの相関を調べたが, 有意な相関は見い出せなかった。一方, 透析患者38名のうち7名が糖尿病由来で人工透析に至った患者 (糖尿病性腎症) であり, これらの患者のほとんどに重度の歯周炎が認められ, 残り31名の透析患者と比較すると, 欠損歯数の増加 (15.9±3.6 vs. 3.9±1.1; p<0.05) および歯槽骨レベル (%) の低下 (58±60 vs. 79±1; p<0.05) が認められた。さらに, 糖尿病性腎症以外の透析患者31名と対照群とを比較した場合, CPITNにおいて有意差が認められ (2.3±0.1 vs. 1.9±0.1; p<0.05), 糖尿病性腎症を除いた透析患者においても健常者より歯周病罹患度が高いことが示された。以上の結果から, 人工透析処置を受けている慢性腎不全患者の歯周病罹患度は健常人より高く, 慢性腎不全が歯周病のリスクファクターになりうる可能性が示唆されるとともに, 人工透析処置を受けている糖尿病性腎症患者はそれ以外の疾患由来の患者よりも重度の歯周病を有する傾向が強いことが示された。

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