ウイルス
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総説
ヒトポリオーマウイルスJCの核内封入体形成機序
カプシド蛋白はPML核体でウイルス粒子を形成する
宍戸-原 由紀子
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2006 年 56 巻 1 号 p. 17-25

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抄録

 ヒトポリオーマウイルスJC(JCV)は,重篤な脱髄脳症である進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスで,感染した希突起膠細胞(oligodendroglia)に核内ウイルス封入体を形成する.JCVの粒子外殻は,360分子のメジャーカプシド蛋白VP1と,マイナーカプシド蛋白VP2,VP3が一定の割合で会合して形成すると推定される.しかし,カプシド蛋白の発現制御機序や,核移行,ウイルス封入体形成の過程には不明な点が多かった.近年我々は,JCV粒子形成機序について,次のことを明らかにした.即ち,(i)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白は,選択的スプライシングにより発現比が制御されたmRNAから合成される,(ii)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白のmRNAはpolycistronicで,両カプシド蛋白の翻訳は制御蛋白agnoproteinの下流で行われる,(iii)メジャーカプシド蛋白とマイナーカプシド蛋白は共同して核に移行し,PML核体と呼ばれるドット状の核内構造に集積する,(iv)PML核体ではJCVゲノム複製と粒子形成が連動し,効率の良いウイルス複製が行われると考えられる.PML核体は,宿主細胞の重要な核機能の発現の場である.JCV感染の標的がPML核体であることは,核内ウイルス封入体形成後の細胞変性機序の解明にも寄与するところが大きい.

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© 2006 日本ウイルス学会
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