2015 年 64 巻 3 号 p. 197-202
試料中の注目する元素に関して,複数存在する(分化した)化学種の化学量論比を決め(同定),それぞれを定量し,存在比(生成分布)を明らかにする分析,さらに,異性体を含めて化学種の分子構造を明らかにするのがスペシエーション分析である.Raman分光や赤外(IR)分光など振動分光や中性子・X線散乱のような分光・散乱実験では,分子や液体の構造だけでなく,化学種の生成平衡を熱力学的に明らかにすることができ,われわれは,これを分光熱力学とよぶことを提案している.本稿では,分光熱力学に基づいた溶液内化学種のスペシエーション分析をビス-(トリフルオロメタンスルホヒル)アミド(TFSA)やビス-(フルオロメタンスルホヒル)アミド(FSA)からなるイオン液体中のリチウムイオン溶媒和に適用し,イオン液体に特異的な第2溶媒和圏におけるイオン液体陽イオンによる中心金属イオン安定化や溶媒和構造平衡を熱力学的に明らかにした例について述べる.