本研究では、重度聴覚障害者の発話及びポーズの時間的特徴について明らかにするために、100dBHL以上の聴覚障害学生10名及び健聴学生10名を対象に、文章の音読を通して得られた音声資料について、音響音声学的に検討した。その結果、健聴学生よりも速い発話速度を示す重度聴覚障害学生の存在が認められた。その反面、従来の聴覚障害者を対象とした先行研究の知見と同様、発話速度の低下がみられる者が確認された。すなわち、100dBHL以上の重度聴覚障害を有しても、多様な発話速度を示す者の存在が認められた。さらに、重度聴覚障害学生の発話は、文中ポーズ回数が多い一方で、健聴学生よりもポーズ時間が短く、発話全体に対するポーズ時間の割合が少ないことが明らかになった。そのことは、音声言語を用いる重度聴覚障害者の中には、従来課題とされていた音節に対する調音運動の時間が短縮している者の存在が示された。また、速い発話やポーズ時間の短さは、聴覚障害者の発話の不明瞭性の一因となり得る可能性も考えられた。