岩手医科大学歯学雑誌
Online ISSN : 2424-1822
Print ISSN : 0385-1311
ISSN-L : 0385-1311
原著
経口挿管における気管チューブへの口腔細菌の付着と口腔ケアによる抑制効果
遠藤 千恵下山 佑木村 重信四戸 豊坂本 望佐藤 雅仁佐々木 実城 茂治佐藤 健一
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 43 巻 1 号 p. 1-11

詳細
抄録

目的:術前の口腔ケアが術後感染症のリスクを軽減するとの報告はあるが,その機序の一つと考えられる全身麻酔時の経口挿管チューブへの口腔細菌の付着については明らかにされていない.本研究では,術後に抜管した気管チューブに付着した総細菌数および口腔レンサ球菌数を測定し,口腔ケアとの関連性について検討を行った.

材料と方法:全身麻酔下で手術を実施した患者のうち,口腔ケアを希望しなかった群(以下,口腔ケア非実施群とする; NOC 群)33 名と口腔ケアを希望した群(以下,口腔ケア実施群とする;OC 群) 20 名より,術後に抜管した気管チューブを回収した.OC 群では,手術1週間前と手術前日に歯科衛生士による専門的機械的歯面清掃(PMTC)を行った.また,すべての患者より,手術当日の朝に唾液を採取した.抜管したチューブを滅菌生理食塩水に浸漬,撹拌し,付着細菌を回収した.回収した細菌を血液寒天培地およびMitis-salivarius(MS)寒天培地を用いて37℃,嫌気的条件下で48 時間培養し,付着した総細菌数および口腔レンサ球菌数を計測した.また,in vitro の実験として7種の口腔レンサ球菌実験室株を用いて,気管チューブに対する付着能を検討した.

結果:抜管した気管チューブには103 CFU 以上の細菌が付着していること,またレンサ球菌属が優勢であることが明らかとなった.また,OC 群では,NOC 群と比較してチューブに付着した全細菌数および口腔レンサ球菌数のいずれも有意に少なかった.一方,唾液中の総細菌数・口腔レンサ球菌数とチューブに付着した細菌数の間には,有意な相関関係は認められなかったことから,主にプラーク中のレンサ球菌が気管チューブに付着する可能性が示唆された.さらにin vitro での付着能の実験では,気管チューブへのミュータンスレンサ球菌の付着能が有意に高いことが明らかとなった.

結論:経口挿管した気管チューブには,口腔レンサ球菌,特にミュータンスレンサ球菌が付着すること,また口腔ケアによりその付着を抑制できることが強く示唆された.

著者関連情報
2018 岩手医科大学歯学会
次の記事
feedback
Top