抄録
[目的]クローン胚由来の胚盤胞で頻繁に観察される内部細胞塊(ICM) におけるOct4遺伝子の発現異常は、クローン個体の成功率が低い原因の一つと考えられている。そこで本研究では、クローン胚に同じゲノムを持つntES細胞を注入しキメラを作成することで正常に遺伝子発現するICM数を増やし、クローン胚の発生能力が向上するか検討した。[方法] あらかじめ樹立したntES細胞をドナー核としてクローン胚を作出し、48時間後に4~8細胞期胚の囲卵腔内へ同じ細胞株のntES細胞を注入しクローンキメラ胚を作出した。比較のため卵丘細胞をドナー核としたクローン胚および受精卵由来のES細胞も使用した。72時間後、胚盤胞へ発生したクローンキメラ胚について、一部はOct4およびCdx2抗体による免疫染色後、全細胞数、Oct4発現細胞数を調べ、残りは偽妊娠マウスへ移植して個体への発生能を調べた。[結果および考察] ntES細胞由来のクローン胚盤胞では平均細胞数47.3個、cdx2発現細胞数は32.3個、Oct4発現細胞数は13.3個であったのに対し、さらにntES細胞を注入した区では平均細胞数が65.3個、cdx2発現細胞数が45.3個、Oct4発現細胞数が17.3個でありクローン胚単独の場合に比べ細胞数の増加が見られた。ntES細胞由来クローンキメラ胚を仮親子宮に移植した結果、クローン胚単独移植で7.4%、ES細胞とのキメラ胚で0.8%、ntES細胞とのキメラ胚では産子を得られなかった。卵丘細胞を核移植のドナーとした場合でも同様の傾向がみられた。また個体まで成長したものでも巨大児やヘルニアといった異常が多く観察された。以上の結果から、クローン胚に同一のゲノムをもつntES細胞を注入することで胚盤胞期におけるOct4発現細胞数を増加させても、クローン個体作出効率はむしろ低下してしまうことが明らかとなり、Oct4発現細胞数よりもエピジェネティックな違いなどの他の因子が胎仔への発生に関与している可能性が示唆された。