日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S19-4
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シンポジウム19
メチル水銀の毒性を制御する活性イオウ分子
*熊谷 嘉人
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抄録

メチル水銀(MeHg)はタンパク質のシステイン残基に共有結合(S-水銀化)して、タンパク質の機能変化や毒性を発現する環境中親電子物質である。我々は、Nrf2がGSH付加体の生成を介してMeHgの解毒・排泄に関与する転写因子であることを細胞および個体レベルで明らかにした。また、cystathionine gamma-lyase(CSE)等から産生される活性イオウ分子は、MeHgを捕獲・不活性化して (MeHg)2Sというイオウ付加体を生じることを見出した。そこで、MeHg毒性軽減におけるNrf2およびCSEの役割を知る目的で、Nrf2およびCSEの単独・二重欠損マウスを用いて検討した。その結果、1)CSE欠損により、マウス初代肝細胞中CysSH、GSHおよびそれぞれのパースルフィド量は野生型より有意に減少したが、Nrf2欠損ではGSH量のみ野生型より有意に低下した。本細胞をMeHgに曝露すると、野生型に比較してNrf2およびCSEの二重欠損で顕著に細胞毒性は増加した。2)MeHgを野生型マウスに有害性が観察されないような用量(5 mg/kg/day, 12日間)を処置した条件において、CSEあるいはNrf2の単独欠損により協調運動の低下、振戦および致死効果が見られ、両者の二重欠損ではさらに悪化した。3)胎児はMeHgに対して高い感受性を呈することが知られているが、胎児期15.5日目のマウス肝臓中CSEの発現は殆ど認められず、成熟と共に増加した。一方、Nrf2の発現量は胎児期と成長期は殆ど変わらなかった。一連の結果は、Nrf2とCSEはそれぞれGSHおよびイオウ付加体の生成を介して、相補的にMeHgの毒性軽減に働いていることを示唆している。

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