日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 117
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発表要旨
新型コロナウイルス感染症対策を考慮した避難所定員(収容可能人数)の算出方法
*岩船 昌起
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抄録

【はじめに】災害時の新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)対策が注目される中,「猛烈な」強さに発達すると予報された台風10号が2020年9月6~7日に鹿児島県に強い影響を及ぼし,県内市町村の多くで避難所運営に混乱が生じた(岩船 2021a;2021b)。特に,避難所定員(収容可能人数)の根拠が曖昧で,COVID-19対策上十分な身体的距離を保てなかった避難所がより多く存在した可能性が高い。また,避難者に周知される避難所の「空き」「混雑」「満員」の混み具合は,定員に基づく百分率等で便宜的に表している場合が多く,COVID-19対策上の意味合いが検討されていない。そこで,本研究では,避難所間取図で入所者の空間的配置進行のシミュレーションを行い,定員の簡易的算出方法を検討し,身体的距離の分析から避難所の混み具合を考察する。

【方法】鹿児島大学第二体育館等,指定避難所となる4施設の間取図から避難所レイアウト案を作成して,個人空間(施設内で個人専有区画を設定できる空間),共用空間(入所者が共同利用するトイレや更衣室等の空間),調整空間(発熱者等を分離するための予備的空間),使用不可空間(施設管理等のために使用できない空間)を設定する。その上で,個人空間と認められた6室に,通路幅1mで,一人当たり4m2の個人占有区画を設け,定員を見積もる。また,心理的距離も考慮して,個人占有区画に入所者が順に入る簡易的にシミュレーションを行い,避難所での混み具合に応じた身体的距離が短縮する状況を検討する。

【定員】個人占有区画一人当たり4m2,通路幅1mとする基準では,鹿児島大学第二体育館大ホール(約1,054㎡)で110人,卓球場(約285㎡) で30人が定員である。他施設で見積もった値も加えた定員と個人空間の床面積との関係は,図1の通りであり,両者に高い相関関係(y=0.097x+3.04, R2=0.98)が認められる。一定の面積を一様のパターンで区画付けるものであり,当然の結果であろう。これに基づくと,個人占有区画一人当たり4m2,通路幅1mでの定員を簡易的に求めるには,区画を設ける個人空間の床面積に0.1を乗じればよいことが分かる。

【身体的距離の変化】鹿児島大学第二体育館大ホールで,個人占有区画に入所者が順に入る簡易的シミュレーションしたでの,収容人数と個人占有区画間の最短距離との関係は,図2の通りである。入所者が心理的距離を可能な限り大きく取り自由選択で入る場合と管理者が身体的距離の最短値が可能な限り最大となるように区画を指定する場合とで比較する。その結果,定員約50%を目安に,個人空間内で前後か左右で隣り合う個人占有区画2つに入所者が配置される状態が出現し,COVID-19感染リスクが高まったことを確認できる。そこで,「空き」を前後左右の隣り合う個人占有区画に世帯・個人がいない場合,「混雑」を前後左右に1個人でもいる場合と定義づけると,定員50%を「混雑」と判断できる。

【考察】避難所定員公表の際には,人数だけでなく,入所者に提供される個人占有区画一人当たりの面積や通路幅の基準も提示されるべきである。一方,定員を超えて避難者を受け入れる際には「トリアージ的な発想で入所者間の身体的距離を短縮する」対応が必要となる。少なくとも入所時にはこの説明が必要であり,会話制限等,短縮時のCOVID-19対策強化のお願いも併せて行うべきであろう。また,区画を変更して入所者の配置を変える際にも,検温結果等の他に,直近2週間の行動歴,ワクチン接種状況等,問診票等で任意での情報提供に基づく必要がある。

【おわりに】本研究では,「個人占有区画一人当たり4m2,通路幅1m」を一例として,避難所定員を求める簡易的方法と「混雑」等のCOVID-19対策上の意味合いを考察した。鹿児島県「避難所管理運営マニュアルモデル〜新型コロナウイルス感染症対策指針」第3版改訂に生かしたい。

<参考文献>・岩船昌起2021a.新型コロナ下における自然災害への備え−大規模化する災害へ対処するために.生活協同組合研究,540,11-18.

・岩船昌起2021b.鹿児島県市町村避難所での2020年台風10号時運営と新型コロナウイルス感染症対策.日本地理学会発表要旨集。

<謝辞>本研究の一部は,科研費基盤研究(C)(一般)「避難行動のパーソナル・スケールでの時空間情報の整理と防災教育教材の開発」(課題番号:1 8 K 0 1 1 4 6)の一部である。

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