日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 634
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変動地形の詳細解析にもとづく糸静線活断層帯中南部,茅野~白州の断層構造と変位様式
*杉戸 信彦松多 信尚澤 祥糸静線重点調査 変動地形グループ
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抄録


○はじめに
 地震調査研究推進本部の「糸魚川-静岡構造線断層帯の重点的調査観測」(2005~2009年度)において,変動地形グループ1)は,「地震時の断層の挙動(活動区間・変位量分布)の予測精度向上」を目的として,活断層の位置精度と変位量情報の高精度化を,断層帯北部より順次すすめている(例えば,松多ほか,2006;澤ほか,2006,2007;田力ほか,2007).ネットスリップ速度分布と地震時ネットスリップ分布に関する考察や活断層GISの構築も本格化している(鈴木ほか,2006,2007).
 2007年度,本グループは,断層帯中南部の茅野~富士見~白州を対象として詳細な変動地形学的調査を実施した.本発表では調査結果を概略したうえで,本区間における活断層の浅部地下構造と変位様式を議論する.
 調査方法,変動地形の認定や地形面の区分と対比,変位量の計測,平均変位速度の算出,また既存研究(引用省略)との相違点等の詳細は澤ほか(2008:本学会)で報告する.

○主な活断層の分布と平均変位速度の概略
(a)諏訪盆地北東縁~坂室~金沢台に左横ずれ断層が2 条認定される(まとめてF1とする).平均左横ずれ変位速度は5~10 mm/yrである(藤森,1991;田力ほか,2007).
(b)金沢台より南東の宮川沿い~富士見ヶ丘には第四紀後期の累積的な断層活動を示す変動地形は認定されない.
(c)大池~金沢~大沢~御射山神戸~若宮~横吹には北西-南東走向のバルジ群が発達しており,その両縁やバルジ上に左横ずれ断層と逆断層が認定される(まとめてF2とする).平均左横ずれ変位速度は3.5~5.0 mm/yr以上,平均縦ずれ変位速度は概して1 mm/yr以下と見積もられる.
(d)富士見ヶ丘~机に左横ずれ断層が認定される(F3とする).
(e)先能~下蔦木に左横ずれ断層が認定される(F4とする).平均左横ずれ変位速度は1.5~5.5 mm/yrである(澤,1985;近藤ほか,2005).
(f)白州北部には西傾斜の低角逆断層が認定される(F5とする).白州南部には西傾斜の低角逆断層に加え左横ずれ断層が認定される(まとめてF6とする).低角逆断層の平均縦ずれ変位速度は0.2~0.8 mm/yrと見積もられる.

○活断層の浅部地下構造と変位様式
 本区間における活断層の浅部地下構造と変位様式は,地表面に複雑な変形を与えるF2も含め,比較的シンプルに説明することができる.
 F1とF4は,活断層線の直線性等の理由から,高角な左横ずれ断層である可能性が高い.実際,F4の傾斜は,先能の釜無川左岸で見出した活断層露頭では南西傾斜約70度~垂直,下蔦木では北西より順に高角(近藤,2005),高角/低角南西傾斜(奥村,1996),南西傾斜約50度(澤,1985)である.また,F2沿いにみられるテクトニックバルジ群は,高角な左横ずれ断層が地表面近くで分岐し,断層面に挟まれた未固結堆積物を上方にしぼりだしつつ左横ずれ運動を行った結果と考えることができる.これは未固結堆積物が厚く断層が分岐しやすいためと考えられる.実際,金沢および若宮のトレンチでは,主に高角の活断層が確認されている(糸静線活断層系発掘調査研究グループ,1988).したがって,F2は,F1やF4と一連の,高角な左横ずれ断層である可能性が高い.テクトニックバルジの存在を理由に大規模な縦ずれ断層を別個に想定する必要はない.また,F3も地下浅部にてF2・F4に収斂する可能性が高い.
 F2の平均左横ずれ変位速度はF1やF4に匹敵する.したがって,金沢台より南東の宮川沿い~富士見ヶ丘に活動的な左横ずれ断層を想定する必要はない.
 F4は下蔦木より南東には連続しない.白州北部に入ると西側隆起の低角逆断層(F5)が認められるようになる.走向はF4までは北西-南東であるがF5は南北である.F5とF4の断層構造の関係は不明である.さらに南方の白州南部では左横ずれ断層と西側隆起の低角逆断層(F6)が併存する.これは,走向がふたたび北西-南東に変化するためと考えられる.

○注
1):糸静線重点調査変動地形グループ:鈴木康弘(名大)・渡辺満久(東洋大)・澤 祥(鶴岡高専)・廣内大助(信大)・隈元 崇(岡山大)・松多信尚(台湾大)・田力正好(復建調査設計)・谷口 薫(地震予知総合研究振興会)・杉戸信彦・石黒聡士・佐藤善輝(名大)・内田主税・佐野滋樹・野澤竜二郎(玉野総合コンサルタント)・坂上寛之(ファルコン)

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