2018 年 56 巻 6 号 p. 422-431
ポリシアル酸は酸性9炭糖のシアル酸の直鎖状ホモポリマーの総称であり,神経細胞接着分子(NCAM)を時・空間特異的に修飾するがん胎児性抗原として知られている.ポリシアル酸が生み出す排他的空間が細胞–細胞/細胞外マトリックスの接着を抑制することで,脳機能のさまざまな調節を行っていると久しく考えられてきた.近年,ポリシアル酸がこの反接着性の機能だけではなく,生理活性分子を構造特異的に保持する機能をもつことが明らかにされ,親和的な空間を作り出すことにより,さまざまな因子群の機能制御を行っていることが示された.さらに,この構造を作り出す生合成酵素と統合失調症をはじめとする精神疾患との関連性が注目されている.ここでは,近年明らかになってきたポリシアル酸の新しい機能を中心に解説する.