日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:コバレント創薬の新たな可能性
環境化学物質1,2-ナフトキノンによるEGF受容体への作用メカニズム
土田 知貴上原 孝
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 157 巻 5 号 p. 352-355

詳細
抄録

上皮成長因子受容体(EGFR)は受容体型チロシンキナーゼの一つで,その異常な活性化は発がんなどに深く関連している.近年,私たちの身の回りに存在する化学物質がEGFRを活性化し,発がんの要因となりうることが指摘されている.一方で,その詳細なメカニズムは明らかではない.そこで本研究では,化石燃料の燃焼により生じ,タバコ煙やPM2.5にも含まれる大気汚染物質の一つで,親電子性を有する1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)に着目した.1,2-NQは化石燃料の燃焼により生じ,タバコ煙やPM2.5にも含まれる.まず初めに,肺胞上皮腺がん由来A549細胞において1,2-NQの影響を検討したところ,濃度依存的にAktを活性化することがわかった.その作用点を解明するために,Akt上流因子である受容体型チロシンキナーゼについて解析したところ,1,2-NQはEGFRを選択的に活性化する可能性が示された.そこで,UPLC-MSE解析を行ない,1,2-NQ修飾部位の同定を試みたところ,EGFR細胞外ドメイン中のLys80が標的であることがわかった.さらに,1,2-NQはEGFR-Aktシグナリングを駆動することで抗アポトーシス効果を示すことも明らかとなった.本研究は,共有結合という1,2-NQによるEGFRの全く新しい活性化機構を提示し,がんと環境化学物質を関連づける重要な知見である.さらに,本研究が示すタンパク質への共有結合を介した活性化修飾は今後の低分子創薬の新たな方向性を提示する.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top