日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
ADHD治療薬リスデキサンフェタミン(ビバンセ®カプセル20 mg及び30 mg)の薬理学的特性と臨床効果
酒井 千賀
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 155 巻 6 号 p. 413-425

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抄録

リスデキサンフェタミンメシル酸塩(以下,リスデキサンフェタミンと記載)(商品名:ビバンセ®)は,注意欠如/多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)の治療を目的に開発されたドパミン(DA)・ノルアドレナリン(NA)再取り込み阻害・遊離促進薬である.本剤は,1日1回経口投与の中枢神経刺激薬に分類される薬剤であり,日本では2019年3月に製造販売承認を取得,2019年12月に発売された.リスデキサンフェタミンは,経口で服用後,血中で加水分解され,活性体であるd-アンフェタミンを生成するプロドラッグである.その薬理メカニズムは,活性体であるd-アンフェタミンがドパミントランスポーター(DAT)及びノルアドレナリントランスポーター(NAT)を競合阻害することでシナプス間隙のDA及びNAの濃度を高めるとされている.またd-アンフェタミンはDA及びNAの再取り込み阻害作用だけでなく,神経細胞内に取り込まれ,小胞モノアミントランスポーターへの作用を介することでDA及びNAの遊離促進作用も有している.d-アンフェタミンのADHDに対する治療効果の作用機序は完全には解明されていないが,これらの作用からADHD症状に対する治療効果が発揮されるものと考えられる.国内外で実施された臨床試験においても,小児ADHD患者におけるリスデキサンフェタミンのプラセボ群に対する有効性が確認された.また有害事象については,プラセボ群より発現率が高かったものは食欲減退,初期不眠及び頭痛であったが,多くは軽度であり,長期間投与しても有害事象の発現率や中止率の増加は認められなかった.依存性・乱用性についても臨床試験においては大きな懸念点は認められなかったが,そのリスクは否定できないため適切な管理が必要である.リスデキサンフェタミンは日本では,覚醒剤原料に指定され,厳格な流通管理が求められる薬剤であるが,DA及びNAの再取り込み阻害と遊離促進という2つの作用を有することで,既存のADHD治療薬で効果不十分の患者への効果が期待される.

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