日本薬理学雑誌
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特集:NOとH2Sの研究の最近の動向
NOと動脈硬化症,血管老化予防
林 登志雄
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2020 年 155 巻 2 号 p. 62-68

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抄録

NOはL-arginine(L-Arg)と酸素を基質にNO合成酵素によりL-citrulline(L-Cit)とともに生成される.L-Argに加え産生物のL-Citにも多彩な作用があることが理解されてきた.NO,L-Arg,L-Cit各々が動脈硬化症さらに細胞老化に一定の役割を果たしていることが示唆された.特にL-Citは血液循環動態,肝,腎通過効果及び細胞内のアミノ酸トランスポーターにおいてL-Argとは異なる経路を取ると理解されている.対象細胞の状態によりNOを介する老化抑制及び血管内皮機能改善作用における各々の役割も異なっていると示唆された.培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)における細胞老化抑制はtelomerase活性を回復させる生理的replicative senescence抑制の可能性が示唆された.これにはNO産生や,NOに拮抗するROS抑制作用を伴った.各種siRNAを用いた検討は上記の結果を支持した.以上をふまえ高血糖動脈硬化モデルラットで,血糖への影響,内皮機能,細胞老化を検討しin vivoでの機序も同様であることが確認された.軽度肥満傾向も内服薬等のない健常中高年ボランテイアの方での検討でもL-Cit 1週間投与にて血管内皮機能の改善を認めた.生活習慣病刺激により細胞老化が動脈硬化刺激(血管内皮機能低下)と共に様々な形で惹起され,老化に対L-Arg以上にL-Citが予防効果を示す可能性が示された.機序として従来の血液循環動態,肝,腎通過効果による作用に加え,細胞内アミノ酸トランスポーターの寄与も示唆され,L-Citの広範な作用の説明が可能と考えられた.進行2型糖尿病,高齢者(耐糖能異常を自然発症),メタボリック症候群(インスリン抵抗性症候群)等の病態モデルでの知見が有用だと考えられた.

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