日本薬理学雑誌
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特集:Cardio-oncology の潮流と新たな展開
腫瘍循環器学―がん治療ならびにがん悪液質によって起こる心機能障害発現メカニズムの解明―
野中 美希上野 晋上園 保仁
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2020 年 155 巻 3 号 p. 165-170

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抄録

近年,がんサバイバーの増加とともに,今まで顕在化していなかったがん治療による晩期障害やがん自身によって起こる障害が深刻な問題となっている.抗がん薬や分子標的薬の中には,生命維持に重要な臓器である心臓に障害を与えるものがあること,さらにがん自身によっても心機能障害が起こることが明らかとなり,がん治療における心機能の安定維持が注目されているが,心機能障害発症のメカニズムについてはほとんど不明である.我々は最近,進行がん患者の約80%に出現しがん死因の約20%を占めるとされるがん悪液質を発症する動物モデルを確立した.がん悪液質患者では心機能が低下するとされているが,ヒトと同様のがん悪液質を発症する適切なモデルが少ないため,がん悪液質と心機能の関係については未だ不明な点が多く,解析はほとんど行われていない.そこで本研究では,当研究分野で開発したがん悪液質モデルマウスの心機能の評価を行い,さらにその治療法として自発運動による治療効果を検討した.ヒト胃がん細胞由来である85As2細胞をマウスの皮下に移植することにより,悪液質の指標となる体重,骨格筋重量,摂餌量の低下が観察された.さらに,悪液質の進展とともに,心筋重量が有意に減少し,左室駆出率(LVEF)も低下した.また,回し車による自発的運動により,85As2移植がん悪液質マウスの摂餌量,骨格筋重量の低下が抑制され,さらに心筋重量の減少の抑制ならびにLVEFの改善も認められた.以上のことから,85As2移植がん悪液質マウスは心機能障害を伴っていること,さらに自発運動は悪液質症状のみならず心機能障害も改善する効果があることが明らかとなった.一般に心不全症状の改善を目的に運動療法が導入されていることは知られているが,本研究により,がん悪液質によって誘発される心機能障害に対しても運動療法が治療効果を発揮する可能性が示唆された.

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