日本薬理学雑誌
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特集:必須微量金属研究のパラダイムシフト
ダウン症モデルマウス脳での銅蓄積とその病態生理学的意義
石原 慶一河下 映里秋葉 聡
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2019 年 154 巻 6 号 p. 335-339

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抄録

ダウン症候群(DS)は,通常2本の21番染色体がトリソミーとなることで発症する先天性染色体異常性であり,その症状は精神発達遅滞や知的障害など多岐にわたる.また,75%のDSの人々(DS者)は60代でアルツハイマー病様認知症を発症することも知られている.これら症状の病態メカニズムについては未だ不明であるが,病態の基盤に酸化ストレスの亢進が示唆されており,事実多くの症状においては老化促進が基盤となっていると理解されている.酸化ストレスの亢進には,ヒト21番染色体上のスーパーオキシドジスムターゼ(Sod1)やアミロイド前駆体タンパク質(App)遺伝子の3コピー化が関与していることが示唆されているが,我々はSod1およびAPPをトリソミー領域に含まないDSモデルTs1Cjeマウスの脳においても酸化ストレスの亢進を見いだしたことを報告しており,DS脳での酸化ストレス亢進にSod1App遺伝子以外の原因遺伝子の関与が示唆される.我々は,このTs1Cjeマウスの脳での酸化ストレス亢進に関連する分子の同定を目的として,種々のオミクス解析を行ってきた.今回,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いたエレメントミクス解析を用いてTs1Cjeマウスの脳で銅が蓄積していることを見いだし,低銅含有食の投与により脳での銅蓄積が改善された.この低銅含有食投与は,Ts1Cjeマウス脳での酸化ストレスの亢進およびリン酸化タウの蓄積を改善し,加えて不安欠如様行動も改善されることを明らかとした.このように,DS脳での銅蓄積が多岐にわたるDS病態の基盤となっている可能性が考えられ,今後は銅代謝異常がヒトDSでも保存されているかについて明らかとすることで,DS中枢症状の新規治療戦略構築の提示を目指す.

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