日本薬理学雑誌
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特集 脳内炎症の制御を基盤とした脳血管疾患の新規治療戦略
『抗プロスタグランジンE2 薬の脳梗塞治療薬としての可能性』 脳虚血障害におけるプロスタグランジンE2合成酵素ならびにEP受容体の役割
松尾 由理
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2014 年 144 巻 3 号 p. 110-114

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抄録

脳虚血後に脳梗塞部位にてプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が増加することが知られているが,その役割については毒性的あるいは保護的と相反する報告があり不明な点が多かった.これは,それまでの研究がPGE2 合成の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の関与,あるいは,各種受容体の関与に焦点を当てたものであったためと考えられた.そこで我々は,脳梗塞におけるPGE2 の役割を明らかにする目的で,PGE2 合成の最終酵素であるPGE2 合成酵素(PGES)の役割を検討した.齧歯類の中大脳動脈閉塞モデルにおいて,脳虚血再灌流後に膜結合型PGES-1(mPGES-1)が発現誘導することを見出した.mPGES-1 欠損型マウスでは脳梗塞後のPGE2 産生が消失しただけでなく,野生型マウスに比べ脳梗塞障害が軽度であり,PGE2 を投与して補うことで野生型マウスと同程度の脳梗塞障害悪化が認められた.従って,脳梗塞後に発現誘導するmPGES-1 は,PGE2 産生を介して脳梗塞障害を悪化させることが明らかとなった.さらに上流酵素であるCOX,下流効果器であるEP 受容体についても検討を加え,COX-2 とmPGES-1 が共誘導されることで効率的に多量のPGE2 が産生され,これがEP3 受容体に作用することで障害悪化に寄与することが示された.mPGES-1 はPGE2 合成の最終酵素であり,かつ,誘導型酵素であるため,mPGES-1阻害薬は他のプロスタノイドや恒常的に産生されるPGE2の生理作用には影響を与えにくいと予想され,副作用の少ない,発症後でも有効な新たな脳梗塞治療薬となる可能性が期待できる.

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