日本薬理学雑誌
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テーシス
Helicobacter pylori菌感染砂ネズミにおける胃粘膜病変に対する薬理学的研究
毛戸 祥博江畑 未紗子岡部 進
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2001 年 118 巻 4 号 p. 259-268

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抄録

H. pyloriは, 胃炎, 胃·十二指腸潰瘍の発生や再燃·再発の主要因子として認識されている. さらに胃癌発生の危険因子としても認識されつつある. 本研究ではH. pylori感染動物モデルとして有用な砂ネズミにおいて, 1)H. pylori誘起胃潰瘍の治癒と再発に対する抗潰瘍薬や抗生物質および併用の効果, 2)酢酸潰瘍の治癒と再発に対するH. pylori感染, インドメタシン(IM)投与および併用効果, 3)H. pylori感染による胃癌発生の確認, 除菌による胃癌発生の予防効果について検討し, 以下の結果を得た. 1)薬物投与によりH. pyloriは誘起胃潰瘍は一旦治癒するが, 抗潰瘍薬のみの投与では休薬後, 数例に潰瘍の再発を確認した. この事からH. pyloriは胃潰瘍の再発因子であることが実験的に証明された. 2)潰瘍の治癒は, IM投与のみでは遅延傾向であった. H. pylori感染およびH. pylori感染下IMを投与した場合, 有意な治癒遅延が観察された. さらに後者でより遅延していた. 従って, H. pyloriは非ステロイド性抗炎症薬による胃傷害を増悪させる因子となることが明らかとなった. また一旦治癒した酢酸潰瘍がH. pylori感染1カ月後から, 全例の動物で再発するという新しい知見を得た. 再発潰瘍は酢酸潰瘍治癒部とほぼ同部位に発生すること, 胃酸分泌を十分に抑制した場合, 潰瘍の再発が全く認められないことも判明した. 従って, 潰瘍の再発には治癒部の再生粘膜が脆弱化していることや胃酸が深く関与していることが明らかとなった. 3)H. pylori接種から18カ月後において, 粘膜にびらん, 潰瘍および過形成変化が観察された. 組織学的に萎縮性胃炎, 腸上皮化生, カルチノイドおよびアデノカルシノーマが認められた. 一方, 除菌群ではこの様な変化はほとんど観察されなかったが, 病変が進行した場合の除菌では腸上皮化生および粘膜の萎縮変化の残存が確認された. 従って, H. pyloriの除菌により胃癌の発生を予防することが可能であり, またより早期の除菌が適切であることが示唆された.

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